むりやり駅舎から連れ出されて、また変なトラブルに巻き込まれてるとか?
いや、唐渓の生徒がそんな事するワケはない。ネチネチと言葉でイビるヤツらはいくらでもいるが、見つかって停学や退学の対象になるような行動は取らない。
唐渓の生徒とは、そういうモノだ。
押し黙ってしまった聡に、慎二はフーッと息を吐く。
「申し訳ありませんが、こちらでは状況を把握しかねます」
長い足を組み、ゆったりとソファーに身を預ける。
「頃合を見て、一度美鶴さんのご自宅を訪ねられてはいかがですか?」
その言い草は、まるで幼子を扱うかのよう。聡の頭に、カッと血がのぼる。
「とか言って、お前何か知ってんじゃねぇのか?」
「私は何も?」
「ホントかよ? 俺たちに隠れて、美鶴に手ぇ出してんじゃねぇだろうな?」
「まさか」
瞳を閉じて、優雅に口元を緩める。
「以前、瑠駆真くんにも申し上げました。私はあなた方の邪魔になるような存在ではありませんよ。美鶴さんがこの家を出られてからは、あまり縁もありませんし」
「嘘つけっ」
すばやい遮りに、さすがの慎二も絶句する。
迂闊にも驚いてしまった慎二の表情を睨み返し、今度は聡が足を組む。
「夏休み、京都で何やってた?」
木崎の視線がすばやく動く。慎二は、動かないまま。
動かないままただじっと、相手を見返す。
何も答えない。だが笑みは失った相手に、聡はスッと、瞳を細める。
「知らねぇとは言わせねぇぞ。美鶴と一緒に、京都ブラついてただろ?」
「何だよ? それって」
「お前ぇは黙ってろ」
口を挟む瑠駆真を片手で強引に制し、視線は慎二へ向けたまま。
「俺たちの邪魔はしねぇ? よく言うよな」
足を戻し、大儀そうに身を乗り出す。
「美鶴に何した?」
やれやれ、これはちょっと厄介かな。
美鶴クン、まさか彼に話したのかい?
鋭く研ぎ澄まされた視線。慎二の頬を切り裂くがごとく、冷たく、そして熱い。
言い逃れるのも一苦労しそうだな、と心内でため息をつき、だが―――
「――― 京都」
突然視線を外し、半ば虚ろな瞳で呟く。
その態度に聡は強く眉を寄せ、瑠駆真はグッと唇を噛んだ。
どんな言い訳かましてくるんだっ? このままその気障りな態度を続けるってんなら、こっちだって容赦しねぇ。
そんな聡の気構えを真正面から受け、意外にも慎二は朗らかに笑った。
「京都のご質問にもお答えしたいが、その前に一つ試したい」
「試す?」
苛立ちを含ませて訝る瑠駆真の言葉に、慎二はチョンと首を揺らす。
「ひょっとしたら、君たちの役にたてるかもしれない」
「答えになってねぇよっ!」
だが慎二は、そんな聡の怒声にも臆しない。
「京都の件より、こちらの方が重要なのでは?」
意図は読めないが意味ありげ。
重要って何だよっ?
相手を追い詰めたつもりなのに、逆に上から見下されているかのよう。
聡がグッと拳を握り、口を大きく開けるのと同時。ポケットの携帯が小さく鳴った。
そのあまりにマヌケな音。覇気を殺がれ、聡はうんざりと息を吐いた。
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